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レポートの要領(実用重視)

優れたレポートを書くための指南書はたくさんありますが、ここでは、採点基準を理解したうえで、優を狙うのか、良ぐらいでよいのか、あるいは不可だけは避けたいのか、という目標に応じて最低限のラインを確保するためのポイントを解説します。

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2024.2.13作成

2024.4.17更新

 

ポートの評価別イメージと具体例

優を目指す場合、下記加点ポイントと減点ポイントに気をつけながら全力で取り組むことになります。でも時間がない人がそこを狙うと玉砕しますので、割り切って初めから良か可を狙っていきましょう。その際、減点ポイントには確実に注意してください。ちょっとしたことで大量失点を防ぐことができます。教員としては、もちろん優を狙ってほしいのですが、この減点ポイントを踏まえるだけでも大学の勉強としてはとても大事だと思っています。

ユダヤ人の歴史に関する授業で、ユダヤ人迫害についてレポートを書く場合の例もそれぞれ入れています。詳細は各教員の指示に従ってください。(評価の優・良・可・不可は、大学によってはABCDに相当します)

不可レポート=感想文

文献にほとんど当たっていないと、自分がもともと知っている範囲でしか議論を展開できないので、自ずと感想文にしかなりません。論拠に基づかない意見や推測は、いかにもっともらしくても大学では一切評価されません(教員の意見に合わせておけば評価されるというのは都市伝説にすぎません)。

例)「ユダヤ人の迫害について」

文献をほとんど参照しないか、ネットですぐに出てくるような数ページの記事だけを見て、差別をせずに共生したいものだと意見表明する、あるいは、誰でも知っていそうな日本における差別を引き合いに出してお茶を濁す。

可レポート=紹介文

時間はないがどうしても単位が欲しいという場合は、とにかく自分はこの本は通読しましたというのをアピールしましょう。テーマをあれこれ考えるより、さっさと図書館の蔵書検索するなり図書館の棚を眺めるなりしてレポート課題に関係しそうで過度に難解でない学術書*を見つけ、そこから引き出せそうなテーマを定めることがカギになります。改めて授業を振り返るとテーマが見つけやすいかもしれません。以下の減点ポイントに注意し、その本のなかからそのテーマに関する部分を、どの本の何ページから引いたかをその都度明記しながら抽出します。なぜそのテーマにしたのかを序論で説明したうえで、結論部で一番重要なポイントを提示すれば、可にはなる可能性が高くなります。できるだけ複数の文献に当たるようにするのが安全ですが、1冊を核に据えて骨格を作り、残った時間で他の文献からそれを補強するという要領でやれば、期限内にまとめる目処が立てやすくなります。教員から「本の内容紹介に終始してしまっている」という辛口コメントは付くかもしれませんが、可はもらえて、それなりに勉強にもなるはずです。

*学術書の基準は下記加点ポイント参照。

例)「ユダヤ人迫害の歴史」

ユダヤ史の概説書はいくつか日本語で出ています。1つを選んで、そこに書かれているユダヤ人迫害事件を抽出して、抜き出したページ数はいちいち明記したうえで時代や地域別にまとめます。それらの事例のいくつかについて別の文献に当たって情報を足しておくと、可は確実になり、うまく発展できればその上も狙えます。序論では、ユダヤ人迫害は具体的にどのようなものなのか、という問いを掲げ、結論では、時代別ないし地域別の特徴、あるいは通時的に見られる特徴を記すというあたりになるでしょう。

良レポート=ちょっとツッコミが入った紹介文

上記のように、特定のテーマを掲げて1つの学術書の内容紹介をしたうえで、そのなかで「これはなんでだろう」「これは具体的にどういうことだろう」と疑問に思ったことに対して、別の文献を参照して解答を与える形になっていると、1つレベルが上がることになります。その際、複数の文献に触れていると、良以上が出やすくなります。疑問点は1つだけに絞ります。自分が一番関心を持てることに絞るのがベストですが、すぐに手に入る文献で一定の解答が得られそうな問いを設定するのが提出期限に確実に間に合わせる方法です。うまくハマれば優が来るかもしれません。

例)「ユダヤ人迫害の背景~中世と近代の比較~」

可レポートは、おそらく古代からつらつらと迫害史を列挙するのに終始します。それに対して、このレベルではそこにメリハリを出していきます。例えば、中世の迫害と近代の迫害を比較して、中世にはなく近代にある要素を見出したならば、それはどのようなものなのかを調べて書きます。人種主義的な要素がそれだとすると、人種主義という発想がどこから生まれたのかを調べます。逆に、中世にあって、近代に少なくなるものということであれば、キリスト教的な背景を挙げることになるでしょう。キリスト教はなぜユダヤ人を差別するのかという問いを掲げて、キリスト教の反ユダヤ主義関連の文献を見つけてそのエッセンスを書きます。うまく書ければ優も狙えます。

優レポート=問いが複数の文献を呑み込んでいく文章

優れたレポートは、1つの文献によりかからず、独り立ちした感じがあります。多くの文献に依拠しているものの、問いからして自分で考え出した感が出ていて、それに答えるために様々な文献に当たって、結論に到達することになります。そのためには普段からいろいろ勉強している必要がありますが、そうでなくても、上記良レポートの延長として、さらに複数の文献で総合的に問いを解き明かしていくという形で進めるのでも、優は十分に狙えます。

例)「ユダヤ人迫害と人種主義――ナチの人種科学を中心に」

上記の良レポートを基礎にして、序論で中世と近代を簡単に比較して、人種主義に焦点を絞り、人種主義がどのような背景から生まれ、ユダヤ人迫害につながったのかをまとめれば、深みのあるレポートになります。ナチの人種科学が話の焦点になると思いますが、人種衛生学とかロマや同性愛者への差別とも重なるところがあるので、そこに光を当てつつ、改めてなぜそのなかでユダヤ人も排除の対象になったのかを調べて論じると、優上も狙えます。

評価の基本原則

 

以上の評価を左右するのは、以下の2つの明示の有無や程度、です。これは学術的な文章全般に共通する基本原則です。

①出典が明示されていること。

②理由が明示されていること。

①不可レポートと可レポートを分けているのはここです。単なる紹介文ではあっても、どこから引っ張ってきたかを必ず明示しているので、仮に別の人がその文章を参考にする際、何か不具合が出たときに出所を確認することができます。つまり、「使い物になる文章」として評価に値するのです。出所不明の話ばかりの文章は、作り話の可能性もあり危なくて使えないわけです。ただ、本から要素を引っ張ってきて、で出典を明記しつつ文章化していく作業は、学術的作業のなかでは比較的単純作業に属しますので、それだけでは高い評価にはなりません。

 

②そこから、要所要所で理由が説得的に開示されていけばいくほど、優の評価に近づいていきます。レポートのなかで、「これってなんで?」「なんでそういえるの?」「これどういうこと?」ということが説明されているかどうか、ということです(最後の点は、正確には「理由」ではありませんが、レポートの結論を導くうえで必要な要素であれば、理由の一環となります)。上記の「ツッコミ」というのも、やや曖昧ですがそれに関わります。理由というのは、推測や自分の考えとは異なります。「こうだからだろう」「こう考えるからだ」というのでは加点なしです。必ず出典を明示して理由の説明をします。その意味で、②のなかにも①の要素が必ず入ります。

教員は、この2つの原則を念頭に置きながら、「これはよくやった」というポイントで一旦加点してから、「これはいかがなものか」というポイントについて減点していくことになります。具体的には以下の通りです。

加点ポイント

 

□参照した文献の質と量

当たっている文献の量が多いと評価は上がりやすいですが、教員が見るのは量だけではありません。質の高い文献、すなわち、学術書や学術論文であることが重要です。ネット記事などは、玉石混交で、緻密さも落ちる傾向があるので、そのあたりが判断できない初学者が依拠するのは実は難易度の高いことです。学術文献であることをぱっと見で判断するポイントは、1頁につき複数の注(註)がついていることです。つまり、論拠が明示されているということです(例として、割注方式=下記減点ポイント参照=を採用している『社会学評論』の各論文)。そのほか、学術機関などの研究者が執筆した概説書は、注が逐一付けられていない場合がありますが、多くの場合は信頼できる準学術書としてカウントされます。研究者が書いたものでもエッセー集のようなものになるとちょっと微妙です。量としては、本であれば、200頁以上の本3冊以上読んで、それらを総合して書いていると、教員としては期待感が出てきます。本1、2冊と20頁前後の学術論文数点という組み合わせでもよいです。


□文章が整理されていて読みやすい

一文一文が無駄なく明快に書かれているだけでなく、読者が順を追って展開を理解しやすい構成になっていることが重要です。書き上げた後に改めてレポートの話の筋を箇条書きしてみて、その筋通りの構成になっているか、筋のなかの各パーツを前後入れ替えたほうが自然な流れにならないかどうかなどを考えて点検してみましょう。

□論証が堅実

勝手な推測を書かずに、抑制のきいた表現で論拠を示しながら事実を描写し、その重要なポイントを抽出しながら順を追って議論を積み上げていき、初めに掲げた問いに対して解答を与えていく展開になっていると、高評価になります。


□内容が面白い

これはいろんな文献に当たった結果としてそうなるので、コツがあるわけではありません。教員はもちろん、多くの学生もある程度知っていることを書くだけでは、面白いとは思ってもらえないため、たくさん文献を読んで知識をため込んだうえで問いを立て、さらにコツコツと調べていくという正攻法でしかこのポイントはクリアできません。時間がない人はこのポイントは諦めましょう。強いてコツというか、分岐点を挙げるならば、問いが面白いかどうかが、当然ながら重要です。特に意外な観点を出せるかどうかです。ただ、そうした問いに答えるには、結局いろいろ調べなければなりません。

 

減点ポイント


□註(注)*がついていない(大幅減点。不可の可能性もあり)

これは、学術的な文章の基本(=第三者が確認できるように出典を明記する)にかかわるため、大幅減点になります。ただ、要は、読んだ文献のどのページからその内容を引いてきたのかを明記すればよいだけのことです。最低限それがわかるように書いてあれば大幅減点は免れます。以下のように註の標準的な付け方に従えば完璧です。なお、直接引用は「」を付けなければ剽窃(ひょうせつ)という不正行為になります。自分の言葉でかみ砕く場合も、どのあたりを参考にして要約したのかを明記する必要があるため、やはり註は必ずつけます。

*註は、以下のいずれかの方式のものを指します。これ以外に補足情報を示す註もありますが、それは必須ではありません。

<割註方式の例>

​今日の東京では、保育園の整備が進み、待機児童数は減少傾向にあるが、○○区では依然としてxx%であるなど、地域間の格差が生じている(山田 2023: 56-58)。​こうした状況のなかで…  

※下線部のカッコを「割註」(割注:わりちゅう)と呼び、著者苗字と出版年は以下のリストの下線部の文献に対応しています。コロンのあと数字は参照したページ数です。

文献リスト

安藤梅子,2012,『待機児童の歴史』石波書店.

遠藤花子,1997,「子育て環境改善計画とNPO」『社会学雑誌』第55号、123-150頁.

山田一郎,2023,『東京都の保育』懇談社.

この方式については、『社会学評論スタイルガイド』がネットで読め、細かいところまで解説されているので便利です

<脚注or文末注方式の例>

今日の東京では、保育園の整備が進み、待機児童数は減少傾向にあるが、○○区では依然としてxx%であるなど、地域間の格差が生じている1。​こうした状況のなかで… 

この数字はWordの脚注機能を使って付けます。

(ページ下部ないし本文の末尾)

1. 山田一郎『東京都の保育』懇談社(2023年)、56-58頁.

2. 同書、60頁.

3. △△○○


□註にページ数(位置No.)が記されていない

どの文献から引っ張ってきたか、だけでなく、そのどのあたりからか、というのも書かなければいけません。文献全体として示していることをまとめて参照する場合に限り、ページ数は書かなくてよいです。


□文献の表記が非標準、あるいは一貫していない

末尾の文献リストでは、上記のように著者名を必ず先に置き、日本語の書籍名や雑誌名は『』で示します。論文タイトルは「」です。出版年も必須です。日本語だけの場合は必ず著者の名字の50音順で並べます。アルファベットの文献は別建てしてアルファベット順にするか、そこに日本語のを混ぜる場合は、日本語をローマ字にした場合のアルファベット順で入れます。記号やコンマの有無などいくつか流儀があり、指定がなければどれでもよいですが、必ず同じルールで一貫させてください。上記『社会学評論スタイルガイド』の文献リストの頁などを参照。

引用・参照が不正確(程度によっては大幅減点か不可

​参考にした文献からの「」引用が正確でない場合はもちろんのこと、その文献が言っていないことをさも言っているかのように示すことは、程度によっては捏造として不正になることがあります。自分の主張と参照文献の主張を混ぜないよう気をつけ、自分のイメージに合致するところだけ切り取ることがないよう、必ずその文献の前後の文脈は正確に理解し、その著者の名誉を傷つけないように注意してください(自分の論文や本がこんな都合の良い使われ方をしたら嫌だな、と思うようなことはしないということです)。

□根拠なく「○○と考えられる」「○○ではないだろうか」「○○すべきである」などと推測や個人的意見を書く

不可レポートの典型的特徴は、ちょっとした情報に対して、自分の推測や意見加えながら展開していくというものです。なぜそう考えられるのか、なぜそのように問いかけるのか、なぜそうすべきと考えるのかということ自体を論証するのがレポートですので、要はその肝心な部分を飛ばしてしまっていることになり、減点になるのです。安易に自分の経験を書くのも避けたほうがいいです(持論を説くことではなく自分が知らないことを調べることにレポートの意義があります)。

□言葉遣いが大雑把

キーワードが多義的だったり曖昧だったりすると大変読みにくい文章になり、また自分でも論理展開の破綻に気がつきにくくなります。口語に引きずられた厳密さに欠く表現にも注意します。特に本筋に関わる言葉については、自分でもしっかり定義をして、必要であれば定義を明記しながら、できるだけ緻密に議論を展開してください。

​※その他、誤字脱字が多い、課題の条件を破っている、なども、当然ながら、程度に応じて減点、もしくは不可になります。

<不正行為について>

剽窃(ひょうせつ)と代行は不正行為として、例えば東京大学では、その授業だけでなくその学期に履修したすべての授業の単位が無効になります。「剽窃」は他人の文章を、それと明記せずに参考にしたり引用したりすることです。直接引用する場合は、「」をつけなければ、註をつけても剽窃となります。なぜなら、「」をつけないと、それはレポート執筆者が、注記した文献を参考にして自分で構成した文章だということを意味してしまいますが、それは虚偽だからです。いわゆるコピペは、採点する側からすると結構わかります。その部分だけ不自然だからです。不自然でないようにするには、不正行為をしないで初めから真面目にやるほうが早いぐらいの用意周到さが必要になります。

代行が「替え玉受験」同様に不正であることはいうまでもありませんが、特に代行業者は悪質なので、使ったり(バイトで)使われたりしないようにしてください。大学は学位授与機関で、その学位の認定のために個々の成績は重要です。替え玉はそのことを毀損するため、利用した本人はもとより、代行業者やそのことを知って代理執筆した人も偽計業務妨害として処罰の対象になりえます。

生成AIを使う場合は、​出てきた文章に関して、その論拠をどこから持ってきたのか、文献名とページ数もAIに聞いてください。答えてくれない場合は、その文章を使っても上記「減点ポイント」に引っかかってしまいます。ただし、答えてくれたとしても、代行業者の利用と同様のことになります。一方、文章表現を練るのに利用するぐらいであれば、計算問題での電卓の利用同等と理解でき、明示的に禁止されていないならば許容されると思います。もっとも、出てきた文章が適切かどうかを判断する文章力をつけるには、自分で一から書く訓練を積むに限ります。

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